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    ※このコラムは東京新聞(2016年11月6日(日))に掲載されたものです。

    「八神流うがい健康法」

     スタッフには大いに突っ込まれそうだが、自分ではのんきだと思っている私でも、職業が歌い手とあって、声の調子だけは神経をかなり使う。朝起きて「あー」と発声すれば、その日の調子が分かる。
     声はとても正直だ。寝不足になれば、肺活量が落ちて声の伸びが悪くなる。お酒を飲みすぎると声はかすれ艶がなくなる。いいかげんな食事をすると、声に力がなくなる。つまり、良い歌を歌いたいなら、健康的な生活を送ることが肝要なのだ。
     とはいえ隔離室にいるわけにもいかない。地下鉄にも乗るし、多くの人が集まる場所に出るのも仕事。米国との行き来で使う飛行機内は、いつもカラッカラだ。マスクをしても、どんなに注意していても風邪っぽくなり、喉の調子が悪くなることはある。
     「ちょっとおかしいぞ。」と思ったら、八神流うがいの出番だ。コップ一杯のぬるま湯に、小さじ三分の一ぐらいの食塩を溶かす。この組み合わせが一つ目のポイントだ。
     単なる塩うがい、ではない。ここからが二つ目のポイント。軽めに一口含んだら、大きく口を開けたまま舌を前に出し気味に、喉の奥で「えー」と言いながら、ガラガラガラガラ。最初はむせてしまうこともあるが、慣れると喉の奥の奥や、喉と鼻の間のイガイガした部分まで、しっかり届く。これを一日六回ほど繰り返すと、熱も出ずにいつのまにか症状は消えていく。
     この八神流。きっかけは米国で風邪をひき、喉を痛めたこと。米国の医者は風邪ではよほどのことがないと、抗生物質などを出さない。なので市販の風邪薬や解熱剤を服用し治すしかない。
     その時、思い出したのが、名古屋の実家近くにあった耳鼻咽喉科の先生。喉が痛いときには、大きく「あー」と開かせた私の口から舌をガーゼで引っ張り、次は私に「えー」と言わせたまま、茶色の薬を喉や鼻の奥の赤くなっている部分にサッと塗ってくれた。「あれが効くなら…」と、うがいも同じようにやってみたら…実に気持ちいい。うれしくなって何度も繰り返しているうちに症状が治まった。
     以来、何十年もうがいをし続け、幸いにもこればで風邪でコンサートをキャンセルしたことがない。私にとっては一年間で数十本するステージのうちの一本でも、来てくださるお客さまからすれば、一年に一本、もしかしたら生涯に一本の私のステージかもしれない。そう思うと歌い手として常に声をベストに保たなければならないし、どんなステージも全力で歌わなければ、と気持ちが引き締まる。
     血圧の関係などで、塩分摂取に制限がある方にはおすすめできないが、風邪予防を心がけたい人、風邪をひきかけた人。八神流うがい健康法をぜきともお試しあれ!